諸君、ごきげんよう。ワニワニだ。
2025年7月22日、今日の市場はまさに熱狂の渦中にある。S&P500指数とナスダック指数は連日のように過去最高値を更新し、楽観的なムードが市場全体を覆っている 。昨日の市場を振り返っても、S&P500は6,305.60ポイント、ナスダック総合指数は20,974.17ポイントと、それぞれ力強く上昇して引けている 。この上昇気流に乗って、誰もが「もっと上がるのではないか」と期待に胸を膨らませていることだろう。
しかし、百戦錬磨の投資家である諸君ならわかるはずだ。市場が最も熱狂している時こそ、最も冷静な分析が求められる。表面的な株価の上昇の裏側では、巨大な力が複雑に絡み合い、激しい綱引きを繰り広げている。今週は、その綱引きの行方を占う上で極めて重要な一週間となるだろう。果たして、この上昇相場は本物なのか、それとも砂上の楼閣なのか。この問いに答えるべく、ワニワニが今週の市場を徹底的に解剖していく。
今週の米国市場の核心
連日の最高値更新に沸く市場だが、今こそ冷静になる時だ。ワニワニの見立てでは、今週の米国市場は『2つの巨大な壁』と『2つの強力な追い風』が激突する、まさに天下分け目の攻防戦となる。
第一に、投資家心理を冷やしかねない「壁」が2つ存在する。一つは、高すぎる期待が設定された「決算という名の試練の壁」。もう一つは、世界経済に暗い影を落とす「関税という名の懸念の壁」だ。これらが、短期的には市場の上値を重くするだろう。
しかし、その一方で、市場を力強く下支えする「追い風」も2つ吹いている。一つは、もはや誰にも止められない「AI革命という名の追い風」。そしてもう一つは、市場の守護神となりつつある「FRBという名の安全網」だ。
結論から言おう。目先の揺さぶりを恐れるな。むしろ、この『壁』によってもたらされる押し目こそ、長期的な勝者になるための絶好の買い場となる。ワニワニは、そう確信している。これから、この4つの力がどのように市場に作用するのか、その理由を詳しく解説していこう。
市場を動かす4つの力:壁と追い風の正体
決算という名の試練の壁
今、米国市場が直面している最大の試練は、皮肉なことに、これまでの好調さそのものにある。S&P500指数とナスダック指数が過去最高値圏で推移しているということは、企業の業績に対する期待値が極限まで高まっていることを意味する 。事実、これまでに決算を発表したS&P500採用企業のうち、8割以上が市場予想を上回るEPS(1株当たり利益)を叩き出しており、企業業績の堅調さは際立っている 。しかし、これが危険な罠なのだ。「良い決算」はもはや当然のこととして織り込まれており、投資家は「完璧以上の何か」を求めている。
この危険な市場心理を象徴するのが、先週発表されたネットフリックス(NFLX)の決算だ。同社はアナリスト予想を上回る増収増益を達成し、さらに2025年通期の見通しまでも引き上げた 。論理的に考えれば、株価は上昇してしかるべきだ。しかし、結果はどうだったか。発表翌日の市場で、同社の株価は5%も下落したのだ 。
なぜこんなことが起きたのか。答えは、決算発表前の株価にある。ネットフリックスの株価は年初からすでに35.7%も急騰していた 。つまり、投資家たちは素晴らしい決算を先読みして買い進めており、好材料は完全に株価に織り込まれていたのだ。その結果、公式発表が「利益確定の売り」の合図となってしまった。これは典型的な「セル・ザ・ニュース(sell the news)」の動きであり、現在の市場がいかに期待先行で動いているかを示す、極めて重要な警告と言える。
この教訓は、今週の市場を占う上で決定的に重要だ。なぜなら、今週は「マグニフィセント・セブン」の主要メンバーであるアルファベット(GOOGL)とテスラ(TSLA)が決算発表を控えているからだ 。市場の注目は、単に売上高(アルファベット予想:約975億ドル、テスラ予想:約249億ドル)やEPSといった数字だけにはない 。投資家が注視しているのは、その先の未来だ。アルファベットからはクラウド事業におけるAI主導の成長が持続可能かどうかの見通しが、テスラからは世界的な関税環境が自動車ビジネスという実体経済に与える影響についての見解が求められる 。
もはや、これらの巨大企業の決算発表は、一企業の通信簿にとどまらない。それは、AIという追い風と関税という逆風が、現実世界でどのように作用しているかを映し出す、リアルタイムのマクロ経済指標そのものなのだ。彼らの経営陣が発する一言一句が、市場全体の方向性を左右する力を持っている。ネットフリックスの二の舞になるのか、それとも期待をさらに超えて市場を牽引するのか。まさに固唾をのんで見守るべき「試練の壁」が、今週の市場に立ちはだかっている。
関税という名の懸念の壁
市場を覆うもう一つの巨大な壁、それはトランプ政権が推し進める「相互関税」政策だ。8月1日という適用期限が目前に迫っており、これが今、市場における最大の不確実性要因となっている 。
この関税政策の恐ろしさは、かつての米中貿易戦争とは次元が違う点にある。これは特定の国を狙い撃ちにするのではなく、世界の主要な貿易相手国ほぼすべてを巻き込む、グローバルな多正面作戦だ。すでに米国側から各国に通告された関税率は衝撃的だ。日本には25% 、EUとメキシコには30% 、その他多くの国々とも予断を許さない交渉が続いている 。
重要なのは、これが「未来の懸念」ではなく、「すでに起きている現実」だということだ。データは、その影響がすでに経済の末端にまで及び始めていることを示している。米国労働省が発表した6月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比で2.7%上昇、変動の大きいエネルギーと食品を除いたコア指数ですら2.9%上昇と、いずれも前月から伸びが加速した 。これは、関税による価格転嫁がすでに始まっていることの明確な証拠だ 。
さらに深刻なのは、雇用への影響だ。7月初旬に発表された6月の雇用統計を見ると、非農業部門雇用者数は市場予想を上回る14.7万人増と、一見すると力強い数字に見える 。しかし、その中身を精査すると、全く異なる姿が浮かび上がる。この増加分の半分近くを占めたのは、州政府の教育部門などの政府部門の雇用だった 。一方で、関税の影響を最も受けやすい製造業は7,000人減、卸売業も6,600人減と、民間、特に貿易に敏感なセクターではっきりと雇用が失われているのだ 。
これは、米国経済が「二極化」しつつあることを示唆している。AI革命に沸くハイテク産業や政府部門に支えられてヘッドラインの数字は好調を維持する一方で、貿易に依存する伝統的な実体経済はすでに収縮を始めている。この経済内部の矛盾は、金融政策のかじ取りを担う連邦準備制度理事会(FRB)の仕事を極めて困難にし、政策判断の誤りを誘発するリスクを高める。そして、この関税は、経済成長を鈍化させるデフレ圧力(景気減速)と、物価を押し上げるインフレ圧力(価格上昇)を同時に引き起こす。「スタグフレーション」的なこの圧力は、中央銀行にとって悪夢のシナリオであり、市場にとって無視できない巨大な「懸念の壁」として存在している。
AI革命という名の追い風
これら2つの巨大な壁を前に、投資家が絶望せずにいられるのはなぜか。それは、すべてを吹き飛ばすほどの強力な追い風が吹いているからに他ならない。その筆頭が、もはや誰にも止められない「AI革命」という構造的なメガトレンドだ。これは単なる一時的な流行り廃りではない。現実の利益と成長を生み出す、本物の産業革命である。
この追い風の強さを証明する、決定的な証拠が先週提示された。半導体受託製造(ファウンドリ)で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が発表した決算と、その後の業績見通しだ。TSMCは、2025年の売上高成長率見通しを、従来予想の「20%台半ば」から「約30%」へと大幅に上方修正したのである 。同社のCEOは決算会見で「AI関連需要はどんどん強くなっている」と断言し、回路幅3ナノメートルや5ナノメートルといった最先端半導体の生産能力が、殺到する需要に全く追いついていない逼迫した状況を明らかにした 。
このTSMCの発表が持つ意味を、諸君は深く理解しなければならない。TSMCは、NVIDIAやAMD、Appleといった世界のハイテク企業からチップ製造を請け負う、いわば世界の工場だ。彼らの売上見通しは、単なる憶測や希望的観測ではない。NVIDIAをはじめとする顧客企業から実際に受け取った、膨大な量の「確定注文」に基づいている。つまり、TSMCの強気な見通しは、AIを支えるハードウェアへの投資が減速するどころか、むしろ加速しているという事実を、これ以上ない形で裏付けているのだ。
このニュースを受けて、TSMC自身の株価はもちろんのこと、顧客であるNVIDIAやアーム・ホールディングス(ARM)の株価も揃って上昇し、最高値を更新したことは記憶に新しい 。これは、TSMCの成功がエコシステム全体に恩恵をもたらすことを市場が正しく理解している証拠だ。関税や景気減速といった短期的な懸念(シクリカルな逆風)を、AI革命という長期的な構造変化(セキュラーな追い風)が凌駕している。これこそが、足元の市場、特にハイテク株中心のナスダックが驚異的な強さを見せる根本的な理由なのである。
FRBという名の安全網
そして、市場を支えるもう一つの強力な追い風が、FRBによる金融緩和期待、すなわち「FRBという名の安全網」の存在だ。市場は今、景気が後退する「ハードランディング」を避けつつ、インフレが十分に落ち着き、FRBが利下げに踏み切れる「ソフトランディング(軟着陸)」シナリオを織り込み始めている。
その根拠は、最新の経済データの中にある。先述の6月雇用統計は、賃金の伸びという点で、FRBにとって非常に好ましい内容だった。平均時給の前年比上昇率は+3.7%と、2024年7月以来11カ月ぶりの低い伸びにとどまり、市場予想をも下回った 。インフレ率を差し引いた実質賃金の伸びも減速傾向にあり、賃金インフレの圧力が和らいでいることを示している 。これは、労働市場が崩壊することなく、健全な形で正常化に向かっている「ゴルディロックス(適温)」状態であり、FRBに利下げを行う余地を与えるものだ。
この経済状況の変化を反映するように、FRB高官からはハト派的な発言が相次いでいる。ウォラー理事は「早ければ7月にも利下げ」の可能性に言及し、ボウマン副議長も次回会合での利下げ支持を表明、グールズビー・シカゴ連銀総裁も利下げ支持の姿勢を示している 。
もちろん、ここには政治的な駆け引きも絡んでいる。トランプ大統領はFRBに対して執拗に利下げ圧力をかけており 、パウエル議長自身も「関税政策がなければ、利下げはすでに行われていたかもしれない」との考えを滲ませている 。パウエル議長の任期は2026年5月まで保証されており、一定の独立性は保たれているものの 、政治的圧力が無視できないレベルにあることは事実だ。
しかし、この一連の動きを深く読み解くと、別の景色が見えてくる。FRBのハト派への転換は、単に経済指標の軟化に対応しているだけではない。むしろ、8月1日に迫る「関税の壁」が米国経済に与えるであろう負の影響を予見し、それを未然に緩和するための「予防的な」動きと解釈することができる。つまり、FRBは来るべき衝撃に備えて、市場に「安全網」を張ろうとしているのだ。これは、かつて市場を支えた「FRBプット(FRBが株価下落を食い止めてくれるという期待)」の再来を投資家に意識させる。この心理的な支えが、市場の底堅さを生み出す、もう一つの強力な追い風となっているのである。
理論を市場の現実に落とし込む
チャートが語る市場の健康状態
マクロ的な分析が複雑に聞こえるかもしれないが、市場のチャートは極めて明快なストーリーを語っている。現在のS&P500指数は、疑いようのない健全な上昇トレンドの中にある。
テクニカル分析に馴染みのない読者のために簡単に説明しよう。多くの投資家が注目する「移動平均線」という指標がある 。これは、過去の一定期間の株価の平均値を線で結んだもので、市場の大きな流れを示してくれる。現在のS&P500の価格は、短期、中期、長期すべての移動平均線のはるか上方に位置している 。これは、上昇の勢いが非常に強いことを示しており、移動平均線が価格を下支えする「支持線(サポートライン)」として機能しやすい状態を意味する 。
では、具体的に今週、どの価格水準を注視すべきか。ワニワニが注目する重要なレベルを諸君に伝授しよう。
まず、下値の最初の砦となるのが、S&P500指数における6,200ポイントの水準だ 。ここは心理的な節目であり、短期的な下落があった場合に買い手が入りやすいレベルと考えられる。もしここを割り込むようなら、次のより強力なサポートゾーンは5,990~6,000ポイント近辺となる 。ここは過去に何度も意識された価格帯であり、ここを維持できるかどうかが、上昇トレンド継続の試金石となるだろう。
一方、上値を目指す展開となった場合、当面の目標は直近高値である6,320ポイントだ 。この抵抗線を力強く突破できれば、視界は一気に開ける。その先の目標となるのが、多くのテクニカルアナリストが意識するフィボナッチ・エクステンションの節目でもある6,370ポイントである 。
これらの価格水準は、単なる数字ではない。過去に多くの売買が交錯し、投資家の心理が凝縮された戦場だ。諸君がこれらのレベルを頭に入れておくだけで、今週の市場の動きを冷静に判断し、リスクを管理し、好機を捉えるための強力な武器となるだろう。
AIの恩恵はNVIDIAだけじゃない
AI革命という追い風に乗るにあたり、多くの投資家はNVIDIAという一つの星ばかりを見上げているかもしれない。しかし、それはあまりにも視野が狭い。真の革命は、一つの企業ではなく、広大な「エコシステム(生態系)」によって推進される。ワニワニが諸君に伝えたいのは、「一つの銘柄を買う」のではなく、「一つのテーマに投資する」という視点だ。
AIエコシステムには、NVIDIA以外にも数多くの魅力的な勝者が存在する。
まず、AIチップを実際に製造する「工場」として、先ほども登場したTSMC(TSM)の存在は不可欠だ。彼らの成功なくして、AI革命は成り立たない 。
次に、チップの「設計図」を描く企業。英国のアーム・ホールディングス(ARM)は、その代表格だ。世界のスマートフォンのほぼすべてに同社の技術が使われているが、AI時代においてもその重要性は増すばかりだ。TSMCの好決算を受けて同社の株価が上昇したのも、その証左である 。
もちろん、NVIDIAの強力な「競合」であるAMD(AMD)も、AIアクセラレーターに対する巨大な需要の恩恵を受ける主要プレイヤーの一人だ 。
そして、視点を少し変えてみよう。生成されたAIや大量のデータを処理・管理するための「データ基盤」も、AI革命の核心だ。例えば、クラウドベースのデータプラットフォームを提供する**スノーフレイク(SNOW)**のような企業は、AIの普及が進めば進むほど需要が高まる、いわば「縁の下の力持ち」として注目されるべき存在だ 。
このように、製造、設計、競合、そしてデータインフラと、AIエコシステムには多様な投資機会が広がっている。この構造を理解することで、諸君の投資戦略はより堅牢で、分散の効いたものになるだろう。追い風は一点から吹くのではなく、幅広い戦線から吹いている。この事実こそが、AIというテーマの強靭さの源泉なのだ。
最終結論:ワニワニの確信と次の一手
さて、これらすべての分析を踏まえて、我々はこの一週間、どう動くべきか。ワニワニの描く未来図は、極めて鮮明だ。
市場は今、決算への過剰な期待と関税への脅威というレンガで一段一段積み上げられた「懸念の壁(Wall of Worry)」を登っている最中だ。したがって、短期的な価格の揺さぶり、すなわちボラティリティの高まりは、我々が予期すべきことであり、むしろ歓迎すべきことでもある。ヘッドラインには、気が滅入るようなニュースが躍るかもしれない。
しかし、諸君には決して動揺してほしくない。短期的な「壁」の存在に目を奪われ、その向こう側にある長期的な「追い風」を見失ってはならない。AI革命は、数年から数十年単位で続く構造的な地殻変動であり、FRBは市場にセーフティネットを提供することを示唆している。
したがって、今週、仮に「セル・ザ・ニュース」的な決算への反応や、関税に関する衝撃的なヘッドラインによって市場が大きく下落するようなことがあれば、それはパニック売りの好機などでは断じてない。むしろ、それこそが、諸君が待ち望んでいた「戦略的な買い場」の到来を意味する。今こそ、目先のノイズの先を見据え、我々の未来を創り出す企業へのポジションを、勇気を持って構築すべき時なのだ。


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